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『新しい朝が来た』

新しい朝が来た

日常 2022.06.12 11:00
 
 月のいい晩でした。ごんは、ぶらぶら遊びに出かけました。中山さまのお城の下を通って少し行くと、細い道の向こうから、だれか来るようです。話し声が聞こえます。チンチロリン、チンチロリンと松虫が鳴いています。
 ごんは、道の片側にかくれて、じっとしていました。話し声はだんだん近くなりました。それは、兵十と加助(かすけ)というお百姓でした。
「そうそう、なあ加助。」と、兵十が言いました。
「ああん?」
「おれあ、このごろ、とても、ふしぎなことがあるんだ。」
「何が?」
「おっかあが死んでからは、だれだか知らんが、おれにくりや松たけなんかを、毎日、毎日くれるんだよ。」
「ふうん。だれが?」
「それが、わからんのだよ。おれの知らんうちに、置いていくんだ。」
 ごんは、二人の後をつけていきました。
「ほんとかい?」
「ほんとだとも。うそと思うなら、あした見に来いよ。そのくりを見せてやるよ。」
 それなり、二人はだまって歩いていきました。
 加助がひょいと、後ろを見ました。ごんはびっくりして、小さくなって立ち止まりました。加助は、ごんには気が付かないで、そのままさっさと歩きました。吉兵衛(きちべえ)というお百姓の家まで来ると、二人はそこに入っていきました。ポンポンポンポンと木魚(もくぎょ)の音がしています。まどのしょうじにあかりがさしていて、大きなぼうず頭がうつって動いていました。ごんは、「お念仏(ねんぶつ)があるんだな。」と思いながら、井戸のそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、人が連れ立って、吉兵衛の家に入っていきました。お経(きょう)を読む声が聞こえてきました。